「ルルーシュ、まだそんな恰好してたの?風邪ひくよ」
風呂から上がったスザクは眉を寄せ、開口一番そう言った。
そういえば、ルルーシュはバスローブのままだ。
自分が不老不死で何をしても体を壊さなくなったからか、人の体調に関しても頓着しなくなってしまったのだとここで気づく。そうだよな、ルルーシュは普通に体だから風邪をひくかもしれないんだよな。
「俺は大丈夫だ。しっかり温まったから、まだ暑いぐらいだ。それより、お前出るのが早いんじゃないか?」
「君が長すぎるんだよ。ね、リヴァル」
「そーだな、スザクも20分は入ってただろ」
「たった20分だろ」
「20分も入れば十分だよ」
「本当か?」
不審そうに眉を寄せ、ルルーシュはスザクに近づき、その首元の匂いを嗅いだ。その行動に俺は「お前がやるとエロく見えるからやめろ!おい、こら、そこまでだ!」と言いたいのを我慢しつつ笑いをどうにかこらえ、スザクは顔を赤くして硬直した。おおっと、予想外の反応いただきました。いやーでもさルルーシュさん、それは洒落にならないからホントに。あーそういえば俺は大丈夫だけど、スザクはルルーシュに手を出したりしないだろうな?他の連中はともかく、スザク相手だと俺負けちゃうよ?
俺がニンゲンだった頃は同性愛はどちらかと言えば珍しかったけど、今は普通の恋愛の形として認められているし結婚もできる。だから、男同士だからそういうのはないだろうって言えたあの頃とは時代が違う。いざとなったらコードを使うにしても、そういうトラブルは無しで楽しく三人旅を続けようぜ?
「・・・及第点だな」
「え?うそ!?まだ臭う!?」
スザクは慌てて自分のにおいいを嗅いだが、残念ながら自分で自分のにおいは非常に分かりにくいからそれは無駄な行為だと言える。それ以前に俺たちバックパッカーは毎日風呂に入れるわけじゃない。1週間風呂に入れないことだってあるから自分の臭いに鈍感になっている。
ルルーシュは問に答えずスザクから離れ、アイロンを終えた衣類を片付け始めた。見ればスザクは傷ついた顔で、慌てて踵を返した。
「何処に行くんだ?」
「お風呂。もう一回洗ってくる!」
「言っただろう、及第点だと。それよりリヴァル、入って来い」
風呂に入ったスザクで及第点って事は、今の俺は落第どころじゃないんだろう。男臭いというよりも俺の場合は加齢臭も加わる。そう考えれば、ルルーシュは今までめちゃくちゃ我慢してたんだろうな。俺たちの臭さに。
あーあ、どうせ年齢が止まるならぴちぴちの20代で止まってほしかった。
「というわけだスザク、諦めろ。俺もせめて及第点にならなきゃな」
俺の返しに、ルルーシュは満足げに頷いた。
「落第点だと、このワインはやれんな」
そう言ってワインボトルの表面に指を滑らせた。
「え、ワイン?あれ?どうしたのそれ?」
でん、とテーブルに乗っていたにもかかわらず、スザクは今まで気づいていなかったらしい。ワゴンだって部屋の入口に置きっぱなしなのにだ。しっかりしてるように見えてスザクもどこか抜けてるんだな。
「ホテルのサービスだそうだが・・・これは、かなり奮発したな。前に飲んだが、なかなか美味いぞ。だからさっさと入って来いリヴァル」
見ると氷が溶けてかなりやばい。
ルルーシュが部屋にある冷蔵庫から氷を取り出すと、僕がやるよとスザクが袋を受け取った。水をいくらか捨て氷を増やす。
「こういうホテルってサービスいいんだね。でも何でワイン?しかもグラスが2つ?」
「たまにあるぞ?まあ、理由あってのサービスだが」
ルルーシュが楽しげにくつりと笑う。あ、こいつ全部解った上で言ってるなと理解した。どういう目的でサービスを運んできたのか。当然、ホテル側ではこんなものサービスでは出してない。これはあのホテルマン個人の下心込めたサービス品だ。
「・・・それって、どういう意味?」
おーっと、スザクさんの目がみるみると据わっていく!声も明らかに怒っております!これは気づきましたね。間違いなく悟っております。これがどうしてここにあるかスザクさんは気づいてしまいました!
「あー、この対応はこれはいけませんねルルーシュさん」
知らぬ存ぜぬと言いたげな困惑顔での対応が正解。そんな楽しげに笑ったらそりゃ何かあるってわかっちゃうだろ。
「対応ってなんだ?俺は何もしていないぞ?」
キョトンとした顔で返され、背筋に嫌な汗が流れる。
「あーもしかして条件反射?なあ、ああいうのってお前今までどう対処してたわけ?」
あの笑みが条件反射とか心臓に悪いと思いながら不安要素うぃまず確認をする。・・・オイオイスザク顔怖い、マジで怖いから俺を睨むな。睨むならルルーシュを睨め。俺は全く悪くない!
「決まっているだろ。これで一発だ」
気づけばルルーシュの手にはペンが一本握られていた。いや、これは小型の改造スタンガンだ。ペン先を相手に押し付けるだけでパチッ!バタン!キュウ!と、一瞬で相手を昏倒させるとか言うルルーシュ特製防犯グッズだ。
「お前、それ持ち歩いてるわけ?風呂にも?」
よく見ると、バスローブのひもに挟まって、もう1本背中側にあった。
「俺のような若い旅行者を狙う馬鹿は山程いる。自衛ぐらい当然だろう?」
部屋のカギだってホテル関係者なら簡単に開けられる。
入浴中は一番危ないから、スタンガン以外の防犯グッズも持ち込んでいるという。
濡れた手でスタンガンは自爆になるから、他の手を用意するのは当然か。
「・・・で、これを持ってきたの誰?」
今の会話で下心のあるホテル関係者からの送りものだと解ったはずだが、スザクは怖い顔のままスザク確認してきた。
「オイオイスザクさん、目が据わってますよ」
「普通だよ」
今にも人を殺しそうな目が普通とか止めてください。普段はくりくりした大きな目の童顔男だろ。今のお前に可愛らしさは欠片も無いからな。
「普通って・・・まー、あれはな、俺が対応して追い返したから大丈夫だって。少なくとも俺っていう保護者が一緒にいるって相手は知ったわけだから、もう来ないと思うぜ?んじゃ、俺も風呂入ってくるな。お前ら全員、俺が出てくるまで部屋から出るの禁止な!あとルルーシュはいい加減着替えろ!」
「解ったよ、口うるさい保護者達だな」
「保護者だから口うるさいんだよ。ほら、着替えて」
「わかった、わかったよ。まったく俺の自由にさせてはくれないんだな」
ルルーシュはめんどくさいと言いたげだったが、その顔は嬉しそうで、ああ、こいつはきっとこうやって大人に構われたりする事がなかったんだろうなと思いながら浴室に入った。